作品データ
- 区分: 一般ノベル- 著者: 川上弘美- 価格: 1045円- 配信日: 2021-11-19
どんな作品か
川上弘美のデビュー作「神様」は、くまに誘われて川原へ散歩に出かけるという、とぼけた優しさに満ちた掌編だった。本書はその「神様」を、2011年の原発事故の後の世界を舞台に作者自身が書き直した「神様 2011」を、元の「神様」と並べて収めた一冊である。散歩の道行きはほとんど同じでありながら、防護服や線量への言及が挟まることで、同じ風景がまったく別の意味を帯びていく。
読みどころ
二つのテキストを読み比べること自体が、この本の体験の中心である。物語の骨格を変えずに世界の前提だけが変わったとき、何気ない描写がどれほど重さを増すか。声高な主張を一切せず、静かな筆致の差分だけで「あの出来事」の意味を突きつける手法は、震災後文学の中でも特筆すべき達成といえる。短い作品だが、読後に残るものは長い。
こんな人に
震災と文学の関わりに関心がある人、川上弘美の柔らかな文体が好きな読者に向く。短い時間で読めて深く考えさせられる一冊を探している人にも勧めたい。